「公約を実現してほしい」 秋田市の「障害者加算」返還問題 市長、7月中に判断

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公約に希望を託して、一票を投じた。一日も早く、その「約束」を実現してほしい。

 7月中に「返還の適否」について判断する――。秋田市で起きている生活保護費の「障害者加算」返還問題について6月17日、沼谷純市長が市議会の一般質問でこう答弁しました。問題が発覚して1年半余り。この間、秋田市は「市のミスで生じた返還(返済)ではあるが、生活保護世帯に返してもらわなければならない」という姿勢を崩していませんでした。秋田市長が「返還そのものの適否を考える」と議会の場で表明したのは、これが初めてです。

公開質問に「返還を求めるべきではない」と回答

 沼谷市長は、今年4月に行われた秋田市長選挙で初当選しました。筆者による選挙時の公開質問に沼谷さんは「返還を求めるべきではない」と答えました。

 また当事者を支援してきた市民団体「秋田生活と健康を守る会」が選挙期間中に行った要請には「市当局のミスにもかかわらず、多額の返還を求められている方々がいることについては大変憂慮しており、制度の是正・改善はもとより、最大限の対応をすべきと考えております」と回答しました。

 5月12日には、当事者と市民団体が新市長となった沼谷さんと面談し「生活保護世帯に障害者加算の返還を求めないでほしい」と要望。沼谷市長は「即答はできないものの、重く受け止めている。あまり時間をかけずに直接、自分の声で(返還を求めないことにするのかどうか)答えたい」 と応じました。 

初めて返還の「適否」に言及

 その沼谷市長が6月17日、市議会本会議の一般質問で初めて「返還問題」について答弁しました。質問者は見上万里子議員です。以下、一般質問のやりとりです。

見上議員
生活保護の「障害者加算」認定誤りによる過大支給について、返還を求めないでほしい旨の要望書の提出があったとのことであるが、市長はどのように対応するのかお聞きいたします。

沼谷市長
障害者加算の認定誤りの対象となった皆さまには、生活保護費の返還等に多大な不安をおかけいたしております。私も先日、当事者の方々と直接お会いをし、お話を伺ったところであり、その状況に心を痛めております。一方で、生活保護費の過大支給については、実施機関の瑕疵により生じた場合であっても、返還を一律に免除することはできないものとされていることから、お一人ずつの生活実態を丁寧に聞き取った上で、自立更生費用(=返還の額から生活に欠かせない出費を差し引くこと。筆者注)を最大限配慮するなど、県からの指導助言を仰ぎつつ、対象者に寄り添いながら、返還決定を進めているところであります。現在、市民団体から返還決定の取り消しを求める要望書が提出されておりますが、これまでの経緯を改めて確認しているところであり、県との協議や、同様に過大支給があった他都市の対応状況等も踏まえ、返還の適否について判断してまいります。

 さらに見上議員から判断の期限を問われた沼谷市長は「7月いっぱい」と答えました。 

 沼谷市長の前半の答弁は、これまでの秋田市の姿勢を踏襲するものです。ただ答弁の最後には「返還の適否」――当事者に返還を求めること自体が適切なのかどうか――を判断したいと述べました。

「期待していただけに」

 この問題が発覚して1年半あまり。物価が高騰するなか、秋田市によってひっそりと「借金」を背負わされた当事者は「返還を求めるべきではない」という市長候補・沼谷さんの「公約」に望みを託していました。そして、初めての議会答弁で沼谷市長がその言葉を実行してくれるのを、待っていました。

 それだけに、当事者からは、落胆の声も上がりました。

 秋田市の返還決定の取り消してくれるよう、秋田県に審査請求(不服申し立て)をしている当事者のAさんは「訴えた時点で、長丁場になることは覚悟していた」としつつ、次のように悔しさを語りました。

 「残念というか、市長さんになる前とまったく違うというか…期待していたこちらが愚かだったのか、という感じです。ごめんなさい、あまりの失望感で、これ以上の考えが及ばないというのが今の気持ちです」

 当事者を支援している市民団体「秋田生活と健康を守る会」の後藤和夫会長は「5月の市長要請から1カ月あまりたった私たちにすれば、本日、返還取り消しをきっぱり明言して欲しかったのが正直な気持ちです」「前市政からの流れや新市長を取り巻く様々な環境下、正しい判断に向けて、沼谷市長が真摯に、正確な判断を確信を持って行うための表明として、今日の答弁を捉えたいと思います」とコメントしました。

 秋田市による返還決定の取り消しを求めて、Aさんをはじめとする当事者が秋田県に審査請求を行っています。秋田県の裁決が出る前に、ぜひ秋田市として返還決定そのものを見直す「政治判断」をしてほしい。間近で当事者の苦しみにふれてきた記者として、強く願っています。

これまでの経緯
秋田市は1995年から28年にわたり、精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の1、2級をもつ生活保護世帯に障害者加算を毎月過大に支給していた(障害者加算は当事者により異なり、月1万6620円~2万4940円)。2023年5月に会計検査院の指摘で発覚。市が23年11月27日に発表した内容によると、該当世帯は記録のある過去5年だけで117世帯120人、5年分の過支給総額は約8100万円に上る。秋田市は誤って障害者加算を支給していた120人に対し、生活保護法63条(費用返還義務)を根拠に、過去5年分を返すよう求めてきた。秋田市はその後、当事者の負担を軽減するため返還額を控除する作業(※生活に欠かせない物品の購入費を返還額から差し引くこと)を進め、120人のうち36人が返還額0円(返還無し)になった。残る7割、約80世帯は依然として返還を求められている(2025年5月時点)。返還額は世帯によって異なり、最も多い世帯で約98万円に上る。

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